PROJECTS

脳が治る力を、
治療薬に変える

15年以上の基礎研究が明らかにした脳の修復メカニズム。
その発見を、患者さんの社会復帰を促す新しい治療薬につなげるための研究プロジェクトです。

脳卒中は、日本における要介護の最大の原因です。 発症後、多くの患者さんが麻痺や言語障害といった後遺症に苦しんでいます。 しかし現在、脳卒中後の機能回復を促進する治療薬は世界に一つも存在しません

私達はこの課題に挑んでいます。 脳が損傷を受けた後に発動する「自己修復プログラム」の全貌を解き明かし、 そのメカニズムに基づいた世界初の回復促進薬の開発を目指しています。

私達の研究が切り拓くのは、
「脳のダメージを防ぐ」医療から
「脳の回復を促す」医療へのパラダイムシフトです。

研究の基盤

SCIENTIFIC FOUNDATION

脳卒中が起こると、損傷部位に激しい炎症が生じます。 この炎症は長らく「脳をさらに傷つけるもの」として恐れられてきました。 しかし私達は、15年以上にわたる研究を通じて、 この炎症には二つの顔があることを突き止めました。

ACUTE PHASE

急性期の炎症

発症直後、免疫細胞が損傷部位に集まり
炎症を引き起こす。
この段階では組織がさらに傷つく。

RECOVERY PHASE

回復期の修復

一定期間を経ると、同じ免疫系が
今度は修復を促進し始める。
脳は自ら治ろうとする力を持っている。

この「二相性」の発見は、治療戦略を根本から変えました。 従来の「炎症を抑える」というアプローチではなく、 「修復を促し、持続させる」という新しい治療コンセプト ― これが、私達の全プロジェクトの基盤です。

研究プロジェクト

RESEARCH PROJECTS

1
Active

NEURAL REPAIR INITIATION

脳の修復スイッチを探る

脂質メディエーターによる神経修復の起動メカニズム

脳卒中の後、脳はどうやって「修復モード」に切り替わるのでしょうか。 私達は、脳内の脂質代謝酵素PLA2G2Eが特殊な脂質(15-HETrE)を作り出し、 これが神経修復の開始スイッチを入れることを発見しました。

この脂質は、損傷した神経細胞にシトルリン化という修飾を加え、 修復プログラムを起動させます。 実際に15-HETrEを投与することで、脳卒中後の機能回復が促進されることも確認しています。 脂質メディエーターという全く新しいカテゴリーの治療薬の可能性を開いた研究です。

治療標的:脂質メディエーター 15-HETrE の投与による回復促進
Neuron 2023
2
Breakthrough

SUSTAINING REPAIR

修復が止まるメカニズムを止める

脳卒中後の機能回復は、発症から数ヶ月で頭打ちになります。 なぜ、脳の修復プログラムは途中で終わってしまうのか ― この根源的な問いに挑みました。

3
Active

INFLAMMATION RESOLUTION

炎症の収束を早める

急性期炎症の最適な制御による修復環境の整備

修復が始まるためには、まず急性期の炎症が適切に収束する必要があります。 私達は、脳の壊死細胞から放出される炎症惹起因子(DAMPs)のメカニズムを解明し、 マクロファージ受容体MSR1がこれを排除する仕組みを発見しました。

さらに最近では、ゾレドロン酸が炎症の収束を早めることを見出し、 既存薬のドラッグリポジショニングによる即効性のある治療戦略を提案しています。 修復のための「土壌」を整えるプロジェクトです。

Nature Medicine 2009, 2012, 2017 International Immunology 2025
4
Frontier

NEXT-GENERATION ANALYSIS

脳の修復現場を可視化する

空間トランスクリプトミクスとシングルセル解析

脳の修復は、いつ、どこで、どの細胞が主役となって進んでいるのか。 私達は最先端の空間トランスクリプトミクスやシングルセルRNA解析を駆使し、 修復の「現場」を高解像度で可視化する技術基盤を構築しています。

脳卒中ルネサンスプロジェクト第2期として、 分子・細胞メカニズムの解明からさらに一歩進み、 脳機能回復の現場をリアルタイムで観察する新しいアプローチに挑戦します。 これは、リカバロミクスの中核を担う技術です。

MEXT Grant-in-Aid — Transformative Research Areas (A)

Recoveromics

リカバロミクス ― 脳機能回復学

私達がこれまでに積み重ねてきた発見 ― 炎症の二相性、脂質メディエーターによる修復の起動、修復を終息させるブレーキ機構 ― これらはすべて、脳が本来持っている回復力の一端を示しています。

しかし、脳の回復は人によって大きく異なります。 同じ脳卒中でも、目覚ましい回復を遂げる患者さんもいれば、 重い後遺症が残る患者さんもいます。 この個人差を生み出すメカニズムは、ほとんど分かっていません。

「リカバロミクス(Recoveromics)」は、 脳の回復メカニズムを包括的に理解し、 一人ひとりの患者さんに最適な回復促進治療を届けることを目指す、 私達が世界に先駆けて提唱した新しい学問領域です。 令和8年度から文部科学省 学術変革領域研究(A)として、 全国の研究者と連携して大規模に展開します。

治療薬開発の展望

TOWARD NEW THERAPEUTICS

私達の研究から、脳卒中後の回復を促進するための複数の治療標的が見えてきています。 それぞれ異なるアプローチで、患者さんの回復を支援する治療薬の開発を進めています。

これらのアプローチは互いに補完し合い、 脳卒中の発症直後から長期の回復期までをカバーする 包括的な治療戦略を構築できる可能性を持っています。 基礎研究で見出したメカニズムを、速やかに患者さんの元へ届ける ― それが、私達の研究室が掲げる最大の目標です。

脳は、治る力を持っている。
私達はその力を最大限に引き出し、
患者さんの人生に「回復」を届けたい。

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